『文学が裁く戦争』iwanami.co.jp/book/b635086.htm

 “溥儀がすべてを関東軍の圧迫によるものとし、自分に「一片の自由意志も許されなかった」と証言していることに対して、(東京新聞の)記事は、戦時中の溥儀が残した友好の詩「訪日の帰路の詩」を取り上げながら「傀儡師」の態度を嘲笑していた。
 それに対して中野(重治)は、「もしわれわれ日本人が、戦争責任の問題をわれわれ自身の問題、国民自身の問題としてかんがへるとき、前の満洲国皇帝を卑怯者あつかひ、馬鹿あつかひをしながら、本家家元の日本天皇にふれぬとしたら、われわれ日本人の正義とほこりとはどこに求めることができるのか」と糾弾する。「われわれ自身の問題」、「国民自身の問題」という言葉は、連合国によって『裁かれ』、責任を『問われ』ているという、受け身の考え方を強く拒否している。「われわれ」が裁き、問わねばならない。「われわれ」は、被告の役だけでなく、検事の役も担わなければならないと主張している。”

第一章 東京裁判と同時代作家たち

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 “しかし、天皇を棚上げにしたまま、溥儀への憎悪を語っている世論は、戦争裁判と戦争責任を「われわれ」の問題として引き受けていないようである。[前略]中野は、この問題にこだわりを見せる。ずらされた憎悪の向け方と肝心な問題を回避しようとする心理は連動しており、そこに「正義」の問題が横たわっていることを認識していたからだ。”

第一章 東京裁判と同時代作家たち

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