憲法前文の勢いについて……藤原辰史
“この期に及んで、わたしは悪くなかった、時代が悪かった、しょうがなかったんだ、なんて、あなたは所詮その程度の人だった。理想が簡単に実現しないなんて百も承知です。でも、わたしの荒みきった暗い心も、放射能に浸された子どもたちも、絨毯爆撃された廃墟も、もう、理想以外にすがるものはない。あなたを地中の闇に沈め、二度と這い上がらないようにしてあげましょう......こんな怒りで体の震えが止まらず、上ずっているような声を私は前文の行間に何度も聞いてきた。”
“「あなた」は必然的に自分をも名指す。だから、前文には人類の負い目もまたしみ込んでいる。自分たちが犯してしまった罪に対する身の縮まるような恥をわたしは感じることもある。”
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憲法前文の勢いについて……藤原辰史
“これらの負い目はあまりにも重くて、どんなに負い目を軽減する物語を作って自分に読み聞かせても解消することができない。死者たちは夢のなかで幾度も蘇り、のどもとを締め付ける。振り払えないからこそ、もう、理想の濁流に飛び込むしかない。表現しつくせない後悔を捨て去れないのであれば、ここまで来てしまった以上、もうこれしかないのだ──そんな悲壮な覚悟を、戦後三一年たって生まれたわたしでさえも、日本国憲法の前文を読むたびに感じるのである。”
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私にとっての憲法https://www.iwanami.co.jp/book/b285371.html