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亡国のスパイ E2 

私がこの男と毎日向き合っているのは、彼の親友だった男について話を聞くため。
それは明らかなのに、ふと一人になった時に考えてしまう。
祖国を裏切った男の妻は数年前に亡くなっている。死因について、男はアルコールのせいだと言った。
けれども彼女が酒に足を取られたのは、一緒に暮らし子供を育てている夫の本当の姿が、彼女が見ているものとは「違う」のだということを感じ取っていたせいかもしれないではないか、と。
そう思わずにいられない。

浮気を疑い、夫の親友に相談しても、詳しく語ることができない仕事のせいだと説明される。
些細な、でも誰にも話せず認めてもらえない「違和感」が何年も静かに蓄積していったら?
誰もが優秀で快活で魅力的な男だと言う夫を、妻である自分だけが信じ切ることができなかったら?

でもきっと、そう思うのは、自分自身にも覚えがあるからだ。
夫は言った。
「ときどき、君と別の人生を生きてるような気がする」と。
あの男の妻もそう思いながら、「魅力的」な夫にずっとはぐらかされながら暮らしていくうちに、少しずつ足を取られていったのだ。不安と疑念が形を変えた、目に見えない何か、に。

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