20230505「帰れない山」1
あのときもしトリノに行っていたらどうなっていたんだろう?
その話を、ジョバンニとは何度もした。
俺の人生は結局なにも変わらなかったのかもしれないし、まったく違うものになっていたのかもしれない。
ジョバンニは、俺があのときトリノに行っていれば、ピエトロを失わずにすんだのかもしれない、という想像をしていたようだった。
だが俺がしたのは、もしトリノに行っていたら、俺は違う人生を生きた代わりに、ピエトロと山で過ごすことはなかったに違いないという、真逆の想像だった。
ピエトロが山に戻ってきたのは、長く話もしないまま父親が死んでしまった後悔がきっかけだった。彼がジョバンニと会わなかった間、実は俺と山に登っていたと知ったからこそ、彼は俺と、あの家を建て直す気になったのだ。
もちろん、俺には彼以外に友達と呼べるような相手はいないし、間違いなく親友だ。
けれどもそれと、俺たちの間にはずっとジョバンニの存在があったということはまったく矛盾しない。