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20230117 新刊の書下ろし3 

 シャワーを終えてバスルームを出ると、ベッドヘッドに寄り掛かってセルを見てるブラッドリーの姿が目に入った。
「すげーたくさん写真とかビデオが来てる」
 薄暗い部屋の中で、光っている端末の光を受けた顔がぼんやりと浮かび上がっていて、なんだか知らない人みたいに見えた。
 知らない人だなんておかしいけど。
 今日、俺たちは結婚式を挙げたわけだから。
「ほら見ろよ。すごい美人が」
 そう言って差し出された画面には、揃いで誂えたばかりのタキシードを着こんだ俺が映っていた。
「裸で本人が目の前にいるのに、写真のほうがいいって?」
 そう言ったら、彼は笑ってセルを放り出して手を伸ばしてきた。
「まさかだろ」
 
 最初は、式なんかしなくていいと思ってた。正直、ふたりとも。
 でも、ブラッドが退役するとか、いろんな手続きをしていく上で、やっぱり急に態度が変わる人が多いことに気づかされた。
 ブラッドはこれまで「嘘はつかないけど、わざわざ言うことでもない」ってスタンスで過ごしてて、親しい人ほどうすうす気づいてたのかもしれない。
 でも俺はたいてい彼女がいたし、一度は結婚もしてるから、付き合いの長い友人ほど「いったい何が起きたんだ?」って動揺したし、反動は大きかった。

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