20230116 新刊の書下ろし2
シンプソン中将はペンを持ってからふと疑問に思った、みたいな顔をしてピートを振り返って言ったんだけどね。
「私が最初でいいのかな? 大佐、君が最初にサインすべきでは?」
去年の任務はもちろん、昔のいきさつも一通り知ってる人だから、ピートに気を使ったんだと思う。でも、ピートはちらっと困ったような、それでいてものすごく嬉しいのを隠しきれてない顔で言ったの。
「いえ、中将。その。私は家族の側なので、そこではない場所にもうサイン済みです」
昨日の食事会のメインイベントは、結婚式の前に、この「家族」の欄にみんなが名前を書く、ってことだった。
ふたりの結婚を、家族として認め、祝福し、多くの友人たちに証人として列席してもらいましょう。そんな趣旨の食事会だったの。
ピートはルースターの側の家族の欄の最初に名前を書くときに、ものすごく緊張した顔をしてた。そして書いた後にちょっと涙ぐんでたと思う。
『ピート、本番は明日なのよ?』
マムがちょっと呆れた顔でそう言ったけど、ピートは頷いて見せながらも言ってた。
『わかってるよ。たぶん僕は明日も泣くと思うから呆れないでほしいけど、これは彼らの結婚に感動してるっていうのもあるけど、今ここに自分がいるってことに感動してるんだ』って。