長年観たくても叶わなかったけど、待ちに待ってようやく観られるとなったら勿体なくてなかなか観る勇気が出なかった『遠い声、静かな暮し』、ついに観ました。ある家族の叙事詩というか、黙示録というか。いや、テレンス・デイヴィスの映画は紛れもなく亡霊映画。怖い怖い。好き好き。てか、マイ亡霊映画はテレンス・デイヴィスが基準かも。
亡霊映画とは、そこにいない存在の気配。なんたってStill Lives(複数形)。狭い玄関、狭い階段、無人の空間に聞こえる声。微風が揺らすカーテン、闇の中の炎、壁に掛かったモノクロ写真。同じ壁紙、同じレースのカーテン、同じパブ、同じ雨。馴染みの人々はそこを出て行ってはまた戻り、祝い、弔い、歌う。うん、アイリッシュといえば歌だよね。
いないはずの父親は、澱んだ空気と共にそこかしこに漂っている。涙や悲嘆もそこかしこに。結婚が墓場なら、あの家は扉が開いた棺だ。写真に見える人たちが動き出し、固定カメラが不意にパンしていく瞬間のなんと恐ろしいことよ。後ろ姿と暗闇に浮かぶ顔も怖いよ…この「誰もいない何も起きない空間がいちばん怖い」はショーン・ダーキンに受け継がれてるのでは。
しかし、予告編にあって物凄くゾーッとしたシークエンスがなかったんだけどあれは何だったんだろう?記憶違い?