???
民謡が聞こえてくる。
何故かその歌が嫌なものだと,
花遊天親は感じた。
この感じはよくない。
ぞわぞわと鳥肌が立っている。
民謡のほかに、もう一つ音があることに気が付いた。
それは、足音だった。
「冗談やないぞ…」
民謡のような歌を歌いながら近づいてくるそれが人ではないことに気が付いてしまった。
それは、花遊天親がこの駅に着いてすぐに、それと、夢の中でも何度も遭遇したあの怪異、"邪視"だった。
夢の中でそいつと会った時、幾度となく酷い目に遭っていた。
見てはいけない。見たら自分はきっとおかしくなる。
天親は全力で走るが、邪視との距離を離せているようには到底感じられない。
息が苦しい。
息を整えようと冷蔵庫の陰に隠れ足を止めたその時、左手に強い衝撃が来た。
そして感じるのは重みと痛み。
その痛みの正体は、天親自身の手を貫通するほど深く刺さった小型の鎌だった。
その鎌は夢で何度も見たあいつが手に持っていた。
つまり、この鎌を刺した犯人も……。
???⑧
アオーーン!!
麻袋太郎が遠吠えをする。
その途端、阿墨の遺体はこの場から消え去ってしまった。
その後は、恐怖により泣きじゃくる春夏冬レンの声と、抱きしめて安心させようと声をかけ続ける鴉羽雨之助の声が、この駅のホームに響き続けていた。
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昨夜未明、〇〇駅入り口にて阿墨修二さん(20)が遺体となって発見されました。
遺体は両腕を切断されていました。
また、腹部から足先にかけての全てを欠損しており、そちらは未だ見つかっておりません。
警察は事件の可能性を追って捜査を進めています。
被害者は先月から行方不明となっていました。
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阿墨修二 死亡END
???⑤
「そいつなら好きにしていいよ」
温厚な性格であったはずの阿墨が助かるために取った行動は、六歳である春夏冬レンを蹴り飛ばし姦姦蛇螺に差し出すという卑劣極まりないものだった。
しかし姦姦蛇螺は阿墨のその発言を聞くと、鬼のような形相となり阿墨の元へと向かった。
そして下半身の蛇の体を阿墨の下肢に巻き付ける。これでもう、阿墨は逃げられなくなった。
「ふざけんな!なんで俺なんだよ!やめろ、代わりがいるだろ!」
そう言って春夏冬レンを指さす左腕を姦姦蛇螺が掴んだ。
強い力に、阿墨を睨みつける視線。姦姦蛇螺が向ける感情が憎悪であることを阿墨は理解した。
なぜ自分が憎悪の感情を向けられるのかわからない。
それを解消すれば助かるのだろうか?そんなことを考えていると、掴まれた腕が強く引っ張られた。
あまりにも強い力により、ゴキンという脱臼する音と共に強い痛みが阿墨を襲った。
その痛みと恐怖に耐えきれず、気づけば悲鳴を上げていた。
先ほどの阿墨の怒号に加えその悲鳴を聞きつけた他の者が続々と集まっていた。
脱臼してなお、姦姦蛇螺は阿墨の腕を引っ張り続けていた。
その力はどんどん強くなっていき、ついには。
???
阿墨修二は夢から醒めてからずっと悪寒が走り、体の震えが止まらない。
恐ろしくて、恐ろしくてたまらない。
一人でいるからこんな気分になるのかもしれない。
人のいるところへ移動してみよう。阿墨はそう考え立ち上がる。
カタン
立ち上がった拍子に、何かが落ちてしまったようだ。
それは、箱だった。そしてその中には夢で見たような爪楊枝が。
崩してしまったというのか。夢の中では、そうなると----
「こんな箱、なかっただろ」
言い終わる前に、ズル…ズル…という音がした。
ザっと血の気が引く感覚があった。
顔を上げてはいけない。開けたら俺はきっと…。
だが、下を向いている阿墨の視界には、非常に太い蛇のようなものが見えていた。
もう逃げられない。
いや、相手の動きは早くなかったはずだ。
手を出されてからでは遅い、今すぐ逃げなければ!
そう思い阿墨が顔を上げると、奴と目が合った。
SCENE5 ②
まず、誰も知らない駅に辿りつき帰ることのできないこの状況自体がオカルトだ。
そのために、瞬間移動などというオカルトの可能性も否定しきれなかった。
「……え、まさか日廻おねえさんが言ってた怪電波とか毒電波とかいう頭おかしーものがほんとにあるってこと?そんなわけないじゃーん」
「当たり前やろ、んなもんあってたまるか」
一ノ瀬碧斗が顔を引きつらせながら言ったその言葉に返す花遊天親も眉間に皺が寄っていた。
実に非科学的な話だ。しかしその可能性を受け入れるのであれば、このスマートフォンから受け取る情報はやはり鵜吞みにできないだろう。
「ほんとにあるなら怪電波はどこから出ているんでしょうか?怪電波でなくても、何かあるかもしれないですよね」
「日廻を死なせたあの怪異や麻袋太郎の仕業なんだろうけど……そうだね、みんなで屋上とかを見に行ってみようか」
言いながら阿墨は先日の惨状を思い出し、軽く口元を押さえる。
自分たちはこれから、あのような仕打ちをする化け物に立ち向かおうとしている。
もしそれが奴らの気に障ってしまったら自分も、同じ目に遭わされるのではないか。
その可能性が真琴の頭によぎり、ゾッとした。
SCENE5 ①
先日の凄惨な出来事を受け、皆憔悴してきていた。
これまでの被害と言えば恐ろしい夢を見るということだけであったが、夢で見た怪異が実際に襲い掛かり、人を襲うという事実が明らかとなり悠長にしてはいられないという焦りが皆の心を蝕んでいた。
今すぐにでも、ここから脱出しなければならない。
「うーん…これ、やっぱり私達が死んだって記事は嘘なんじゃない?」
そんな中、野々宮真琴がインターネットを見ていると、日廻が〇〇駅で遺体となって発見されたという記事を目にした。
この記事が今出回るというのは、明らかに矛盾があった。
かつて阿墨が見つけた、
「ここにいる全員が山中で遺体として発見された」
という記事と矛盾している。
死亡が確認されたというニュースが期間を置いて二度も出るのはおかしい上、遺体発見場所も違う。
しかしその矛盾する二つの記事があるということは、どちらかは正しい可能性があるという可能性を真琴は考えた。
今見つけた記事もでたらめなものだという可能性ももちろんあるが、遺体として見つかったのは、ここで実際に亡くなった人物である日廻であったため辻褄は合う。
遺体がいきなりそんな場所に現れたというのも十分おかしな話ではあるが、現にここでは遺体が突如消えていた。
???③
傷は皮膚と肉をぱっくりと割り、日廻夏八の胴体には"隙間"ができた。
「やだ、助けて、私の体、どうなって…」
彼女の悲鳴を聞きつけた者。駅のホームにいた者達が見ている前で。
「ヒマワリ!」
声の主は、シャーロット・ワトソンだった。
日廻夏八の悲鳴を聞きつけ近寄ろうとするが、その光景を見ていち早く異変に気付いた鴉羽雨之助に止められ、近寄ることはできなかった。
シャーロットを亘貴が抱き止めたのを確認した鴉羽はすぐさま日廻のもとに駆け寄り助けようと試みる。
しかし助けようがなかった。
雨之助は日廻のぱっくり開いた腹部から見え隠れする臓器やおびただしい量の血液を。
内側から日廻の体をこじ開けるおぞましい手も、見てしまっていた。
「うそ…」
それが、日廻夏八の最後の言葉だった。
⚠ホラー注意
⚠創作企画です
当企画は完結しました
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