死してなおいまだに僕の最愛の猫であり続けるあいつはある日、ご飯をあげたはずなのにすぐに催促してきた。
おかしいと思い、当時住んでいた風呂なし共同便所な古ぼけた木造アパートの、窓手すりに拵えていたあいつの寝床に向かった。手すりの内側にベニヤ板で作った簡単な風除けと雨除けがあって中に小さな布団を敷いてある。その寝床の脇に餌の皿を置いていたからだ。
見ると中身は空っぽだった。
「そうかそうか、今日はたくさん冒険してきたんだな」と手を伸ばすと、ぴゅっと出てくる攻撃的な手と共に寝床の中から唸り声が。
「え?」うちの相棒なら僕の足元で餌くれえええと甘えた声で訴えてるぞ?
中を覗くと、ここらじゃ全く見かけない風体の大柄な猫が、暗闇のなか目をギラギラさせて僕を睨みつけていた。緊張が走る。だが足元の相棒は間の抜けた甘え声で餌をねだる。僕は混乱した。
とりあえず部屋に戻り、一杯分の餌を袋に入れようとした時、ようやく意味がわかった。
意味を確認しないまま手すりに戻り皿に餌をあけると、寝床にいたギラギラ猫は貪るように音を立てて喰み、あっという間に平らげた。足元の相棒はというと、満足げな表情で黙って尻尾を大きく振っている。
えっと、流れ猫がいたから一宿一飯与えてやったって、そういうこと?
おもろいうちの相棒の話はまたいつか。