抜いた親知らずはもらって帰って煮て血と肉を取り除くの。
顎が小さいから下の歯は両方埋まってて横倒し、切開してほじくって抜いてもらった。
持って帰ります!と言ったらじゃあ折れた根っこくっつけましょうって接着している間、「瞬間接着剤は戦場でも使われていたんですよ」と歯医者が話しはじめた。痩せぎすで小柄な、物静かな眼鏡の医者だった。
折れた歯の根をピンセットで固定しながら、医者は続けた。
「縫うことができない時なんかにね……」
医者が手にしている私の奥歯を抜いた跡はひと針縫合されている。抜いた歯は瞬間接着剤で固着されている。
私が示した関心に気が付いたのか、医者は「ホッチキスもね、元はフランスの機関銃だそうです」と重ねた。
戦争と開発と実験と医療について、改めて考える時間だった。帰宅して歯を煮た。
今も何かを茹でる時にそのことを考える。