快原理のもとでは、願望充実を幻影のうちに実現することが夢の機能である。しかしながら、大きな災害や過酷な戦争体験の神経症患者の夢では、患者がくり返しトラウマ的な場面に連れ戻される経験をする点にフロイトは注目した。通常、夢での不快な場では、幻想のなかで不安を形成することがいわば免疫をもたらし、直接の心的衝撃を和らげる効果をもつ。フロイトの言葉でいえば、快原理に代わって現実原理が欲動を「拘束する」ことで結果的に快原理の働きを成し遂げることが可能になる。にもかかわらず、外傷的神経症患者の夢では、心的エネルギーのこの拘束が快原理に奉仕するようにうまく働かない事態が生じてしまう。その理由は、心的拘束が現実原理で対処できる限界を超え、いまや反復強迫にしたがって生じているからである。この反復強迫をきっかけにフロイトが仮説として提出しているのが「死の欲動」である。