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アドルノは自我に関する理論において、二つの考えの間を揺れ動いている。一つは自我というものは廃絶されてしまっており、支配者に管理されるアトムとなった人間たちという考え。もう一つは、弱体化してるとはいえ自我は存続しつづけているのだが、しかし自分の身を守り無力な状態を抜け出そうとして、ほかならぬ当の権力と一体化してしまい、自律について考えることすら放棄することになるというもの。後者の考えに立脚する場合、この弱体化した自我について、「大衆心理学と自我分析」というフロイトの研究にかなり依拠しながら「集団的ナルシズム」にかかわっているという診断、またアンナ・フロイトが行った自我の一定の防衛形成の解明をわがものとしつつ「攻撃者と一体化」しているという診断をくだすのだ。それはまさにフロムが『権威と家族に関する研究』から『自由からの逃走』において、〈サド-マゾヒズム的性格〉あるいは〈権威主義的性格〉と呼んで分析したものであった。

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