【感想】『歌うカタツムリ 進化とらせんの物語』千葉聡
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歌うカタツムリ 進化とらせんの物語 (岩波現代文庫 社会341) | 千葉 聡 |本 | 通販 | Amazon
生物の進化の研究における長い論争について、研究対象としてカタツムリが果たした役割の大きさをフィーチャーして辿っていく、サイエンスノンフィクション。ポピュラーサイエンス……という言い方をするには結構難しい進化生物学の話も含まれる。
某discordサーバーにて本書は名作ですよねという会話が交わされていて、気になったので読んだ。しかしその会話において名作ですよねという以上の情報がなかったので、なんかカタツムリの話っぽいなという前情報しか持たずに読んだのだけれど、結果的にとても良い体験になった。何がとても良い体験になったのかをこのあと書くけど、それを読んだ人は同じ体験はできないのである意味でネタバレ注意かもしれない。なにがというと、まず本書は前置きとかそういうのがなくていきなり始まる。いや、最低限の前置きは一応あって、タイトルでもあるかつてハワイでカタツムリが歌うと信じられていた話がプロローグになっており、そのあとの第一章冒頭では、本書が扱うのがカタツムリから見た進化の研究、進化の研究が辿ったカタツムリのような歴史であることが表明されている。しかし、本当に端的に何を書くかを告げているだけで、「第何章で何を説明し、第何章で何を掘り下げます」というような道筋を示してはくれないし、最終的にこれが全体としてどういう本なのかはよくわからない(いや、今考えるとはっきり書いてはあるのだが、初読だとわからない)。逆に言えばこれだけを表明して直截に語り始めることで十分読者がついてきてくれると信じて書かれているし、実際その優れた描写力をもつ語り口は一気に読者を引き込む力があると思う。学術的には難しくてついていけない話も結構あったけど、細部を適当に済ましてしまうことはしないながら、サブタイトルの通り「物語」として大きな流れを楽しむことができるようにも書かれている。そして、ほかにも前置きに書かれていないのは、筆者が誰で、どういう立場でこれを書いているか、ということで……それが後半唐突に出現するところがある種の仕掛けとしてすごく楽しくて、かつそのパートのエッセイとしての魅力がすっかり気に入ってしまい、この構成ズルだよ!となってしまった。ここでそういう仕掛けが発動したり伏線回収したりすると思わなかった。純粋にカタツムリの見せる様相への好奇心、楽しさ、それを巡る研究と論争の歴史物語としての楽しさ、読み物としての楽しさ、色々な楽しさが混ざって回転するとてもいい一冊だった。
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