2023 新春連続読み『天明白浪伝』
個人的に、今回の連続の中で一番好みだったのは最終話である第十話『大詰め勢揃い』だ。
泥棒たちが追い詰められ捕まってゆく酸鼻極まる凄惨な光景に浪花節的なウエットさは全くない。
渇いていて、天明の大泥棒の最期に相応しい呆気ない美しさだった。
さながら、アメリカンニューシネマのようでもある。
ラスト近く。捕手に追われた泥棒一味のひとり、鼠和尚快傳が(最後の晩餐よろしく)熱々の飯を線香臭い汚い水で手を湿らせてこさえた握り飯を皆で頬張り「あばよ!」と未練も残さずに散り散りになって駆けて行く。
未来のない彼等の後ろ姿が、行き当たりばったりで破れかぶれで滑稽なんだけどそこが哀しくて、グッと胸に迫るところがあった。
今回の連続読み(天明白浪伝)では「鼠“和尚”快傳」との呼称だが、実録物だと「鼠“小僧”快傳」の表記である。
鼠小僧快傳は僧侶の身なりをしていることから、文化文政の頃に活躍した鼠小僧次郎吉と差別化するために「鼠和尚」に変えたのではないかと推測される。
なお、「快傳」が「怪傳」表記の物もあり、個人的には「怪傳」の方が好み。