感想 ヴェルディ『運命の力』METライブビューイング
前回の『カルメン』が百点満点の面白かったのと比べると、見た後に茫然としてしまう。
男女の恋愛感情(出会いもどこが好きなのかも謎)、スペイン、戦争、カトリック教会、時代を現代にした新演出で、それぞれのつながりや必然性が不明でバラバラになっている感じ。その思い通りにならなさがリアルで、ヴェルディは運命そのものをテーマにしたのだと分かる。あと歌や音楽は最高。
セクシーミリタリーうさぎダンサーズは最高。プレツィオジッラの妖しい美しさは『魔笛』夜の女王に並ぶ。
メリトーネの嫌な感じもコミカル。
一瞬出てきたユダヤ系の人、どういう仕事なのか。
カットされがちな脇役のシーンも上演したのが、時代の空気や群像劇に有効だった。
各幕の最初の映像、場面の説明以上に印象的。
アールデコと、日本でいうバブル期の美術、
兵器がヘリなのはベトナム戦争のよう。
戦後の廃墟、今まで見たオペラの舞台で一番汚い(二番目は2023年のMETの『ファルスタッフ』)
演出のマリウシュ・トレリンスキが、(ロシアのウクライナ侵攻に関して)戦地に近い祖国ポーランドに言及していた。『カルメン』も、軍需工場やメキシコ国境の設定だったが、それ以上に戦争を意識したオペラになっていた。