田中宗一郎さんを擁護するわけじゃないけど、今の若者は、かつて万引きが「リャク」と呼ばれて、ギロチン社(アナーキストの集団)に賞賛されていた事実を知らないんじゃないかな。ある時代には、万引きが力なき者の体制への投石的な行為だったわけで。田中さんがアビー・ホフマンや三上寛を引き合いに出しているのも、この文脈からすれば納得はできるんですよね。実際、「万引き」って左翼の一部の流れの中では確かに(かつて)存在してた。
さらに、大阪の下町でインディーズ文化に受け継がれてきた「土着」の精神もあるし(だからこそ田中さんは「ダメな奴は…」って言ってるのかもしれない)。セックス・ピストルズのスティーヴ・ジョーンズを始め、1970年代のパンク・ムーヴメントから派生したイギリスのレベル・カルチャーでも、ザ・ストリーツからスロータイまで、労働者階級に根付いたストリート・カルチャーの一部として受け継がれてきたわけです。
今の日本に欠けているのは階級意識と、何かを死ぬほど欲しがる「欲望」じゃないかと思うんです。そもそも今の若者って、何かが欲しくてたまらなくなった経験があるんだろうか。もしないとしたら、それこそが問題なんじゃないかな。田中さんは、その点をもっと強調すべきだったと思う。ただ、この考えをそのまま2024年に持ってきても、今の若者にはオルタナティブにはならないと思います。たぶん、啓発される人も少ないでしょうし。