『ヒア・アンド・ナウ 往復書簡2008-2011』の中でジョン・マックスウェル・クッツェーがポール・オースターにリーマンショックの性質をプラトンの『国家』になぞらえて説明しようとするくだりがあって、知性ってこういうものかと感心するしかないんだけど、クッツェーによれば、リーマンショックで何が起こったかというと数字の下落だけだと言うんだ。何も対応するものを持たない、純粋な数字な下落によって明らかに自分の生活が貧しくなっていることの驚きを彼はプラトンの「洞窟の比喩」(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/洞窟の比喩)を使って、説明しようとする。これに対して、オースターはもっとも馴染み深いフィクションとしての金について語り、別のところでそれを第三者のゲラの内容を借りて「金融資本主義」として定義しようとするんだけど、この一連のやりとりに関しては、オースターの咀嚼の上手さより、クッツェーの着眼点の鋭さのほうが印象的。