エチ賞「干し柿の現在地」執筆秘話1 

1年前、麻紐に連なった干し柿をもらったのがきっかけで書いた小説について、1年も経つと自分でも何を書いたか詳細を忘れてしまう。件りとして書いた覚えがあるのが、縄結びがうまい事情をガールスカウトにいた設定にしたのだけれど、それにはモデルがいる。
ある日の朝、会社までの道中を通勤している時、その日ははちらほらと束ねられた紙の束が道に置いてあった。古紙回収の日である。まあそんなこともあるよね、と思って歩みを進めていると、山のように紙が盛られている一角があった。その家の壁一面が紙で埋まっている。かなりの量の古紙。その中には明らかに書籍が混ざっていたので、どれどれとめぼしいものがないか見ていると、小学生用の百科事典があった。花や爬虫類や鳥といった項目ごとに分かれている。古い。しかしたまにはこういう子供向けのオーソドックスなものを読んでみたくなり、こっそり白い紐を外して必要な書籍だけ抜き出そうとして、ふと壁を見ると張り紙には「とじ紐から紙を抜くことを禁ずる」と書かれている。しかし、その時辺りには誰もおらず、抜いた紐に隙間を戻せばいいだろうと思って、そっと紐に手をかけた。そして、紐の間から本を数冊抜き取ったところで、背後に追加の古紙を持ってきた男性がやってきた。

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エチ賞「干し柿の現在地」執筆秘話2 

私は慌てて張り紙と目が合い、紐を直そうと取りかかった。しかし私が紐を直すよりも優に男性が私に近づく方が早く、とうとう男性とも目が合ってしまった。
怒られると思いきや、男性は言った。
「そんな本いるんか」
ここから待ち受けるのが怒られであろうとも、ここは会話をしたらいいところだろうと私は瞬時に察し、
「おもしろそうなので。捨てられるのもったいないし」
と言い訳をしつつ、会話らしいものを試みてみた。エコ意識を匂わせなくもなく、相手を多少避難することで、あわよくば、怒られることへのわかりづらい予防線でもある。すると男性は
「それやったらこっちの本の方がおもしろい」
と言い、古紙の壁から引き剥がして渡されたのは赤い表紙が10センチはある分厚くて古い本だった。
「これはなんですか?」
「ボーイスカウトやってたから、縄の結び方の本や」
「えらい古いですね」
「昔丸善で買ったんや。取り寄せてもろてな」
と言って、中を見せてもらうと英語に縄の結び方のバリエーションが描かれた絵がみっちりしている。
「持ってったらええわ」
「なんか貴重そうな本ですけど」
「どうせ捨てるし。ヨットもやっとったんや。ヨットの雑誌もあるわ。これも持っていき」

エチ賞「干し柿の現在地」執筆秘話3 

その日、私は再び子供用の辞典3冊と赤い洋書とヨットの洋雑誌2冊を持ち、歩き出すが、めちゃくちゃ重くなった鞄を持って、もともと遅れ気味だったその日、遅刻をした。
その時にもらった本のやりとりからの着想が盛り込まれている。

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