トッ腐ガン ルスハンAU 

ハングが網膜剥離で空を降りてる。ルスは本編設定のまま。ハングはルスの5歳年上。

「マブい教官がいる」
なんて親父と同世代の男どもしか使わねぇような表現で評される教官がいることは知っていた。なんでもスゲェ実力で、敵機撃墜の経験もあるんだとか、しつこく発艦許可を要請して仲間を救った事もあるんだとか。でも目がダメになって空を降りたんだとか。俺はてっきり女性だと思い込んでいた。
訳のわからねぇ招集のされ方で、でも派手な任務なんだろうなって想像はついてたから、らしくもなく俺は高揚した気分だった。海軍のアヴィエーターの思いつく限りのトップクラスをかき集め、「特殊任務のために特別な訓練」をすると聞いていたが、一体誰が教官を?ってのはフェニックスじゃなくたって、困惑と期待を隠せなくもなるってもんだったから。
それでウォーロックの雰囲気たっぷりの紹介の後、登場したのは、脳内でとっくにミンチにして無かったことになっていた元養父。それから…。
「例のマブ…って、アレか…」
誰ぞが噂のフレーズを呟いたのを耳が拾う。確かにマブかった。やけに得意気な顔で、肉塊になっているはずの男が分厚いマニュアルを捨て、それを伏せ目で笑んで受け流すマブい男。その顔つきに、この任務で合流する以前から→

トッ腐ガン ルスハンAU 

二人は知り合いなのだろうと窺える。…寝てるかもなと思った。なんてったって、あのミンチ野郎は片っ端から寝るからな…。しかも顔面が良い相手なら男も女もお構いなしだ。きっとそう。
特別な任務とやらに、浮かれてた心は氷点下に一気に冷え込んだ。いやもしかしたら逆なのかもしれない。烈火のごとく燃え盛るマグマみてぇに熱いのかも。
早速、お手並拝見としようと嗤うミンチに、隣のマブはサングラスを下ろして楊枝を咥える。カッコつけてるニヤリ笑いは、マブだかなんだか知らねぇが、確かにミンチ野郎の隣にしっくりとハマり込んでいた。
フライトスーツに着替えを済ませ、機体に移動すべく事務的に足を運んでいると背後から声をかけられる。
「大尉…大尉!ブラッドショー大尉!」
シカトしようと思っていたのに反射的に足が止まっちまって、仕方なく振り返る。階級章は少佐。サービスカーキ越しでもわかる完璧に鍛えられた身体。もう飛べねぇのにアンタは何を必死になって鍛えてるんだ?健康維持?それとも、魅惑のボディにメンテナンスか何か?
「何か御用ですか、サー?」
サングラスを上げず、憮然と儀礼を尽くす。サングラスを掛けたまま彼はニンマリと笑んで言った。
「話には聞いてたが、小学生並みだな?ルースター?」

トッ腐ガン ルスハンAU 

「なんのお話か分かりかねます。もう行っても?」
聞き終わらぬ内に、タハ、と彼は顔を伏せて嗤い、己の首に右手を掛けてから顔を上げた。顔を傾けニヤニヤ笑い。煽ってくんじゃねぇよ。犯すぞ?
「あの人、ああ見えて挨拶の時からかなり堪えてるぞ。お前も、もういい大人だろ?絶交だなんて…」
何かを考える前に手が伸びた。彼の胸倉に。
「え、ちょっ?」
随分遠くからフェニックスの引き攣った声が聞こえて、パッと掴み込んだサービスカーキを解放する。
なんだ?と周囲が振り返ってこちらを見やる気配。『マブい教官』とやらは『なんでもねぇよ』と言いたげにシッシッと手を振ってみせる。
「すぐカッとなるとこは親父にそっくりだな?」
顔を伏せたまま、彼の余裕は崩れない。
「…何年ですか?」
「…?」
「あの人と知り合って、何年ですか?サー?」
「4年、5年ってとこか?それが…」
「俺はね、センセイ。あの人が二十代の頃からずっと知ってる。でもセンセイには負けますよね?セックスしてないから?」
完全に不敬だ。懲罰対象ど真ん中。けれどに彼は不快を顕す以前に一瞬で耳まで真っ赤になった。ふ、と知らず俺の口の端から笑いが溢れる。
「なんだよ、アンタの片恋か?」
俺の言に我に返ったらしい。今度はサッと顔を白くして→

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トッ腐ガン ルスハンAU 

硬質な顔つきで、ただ無言で俺を見つめた。『美人が怒って黙ると怖い』と過って、これはあのクソの言だったなと胸中で打ち消す。
「…聞かなかったことにしてやる。行け」
「はい、サー」
くるりと踵を返して俺は自分の機体に再び足を運ぶ。こんな優秀な連中の中で特殊訓練だなんて、実力を磨くチャンスだと俺は思っていた。ついさっきまでのことだ。そこに嘘はない。
ただ、今は猛烈にムカついていて何も考えられない。本当に何も。
何も考えてねぇので、ギッタンギッタンにしてやりたいと思っていた男に散々コケにされて今日の訓練が終わる。
罰の腕立てをカウントする男の発音が妙に甘ったるくて気色悪い。マブくねぇ。ひたすらムカつく。
「もう終わりだ、ルースター」
頭上で何か言う男を無視して腕立てを続けていると、やがて苦笑と溜息を零して男は立ち去った。
腕立てをやめたくないのはあの男がウザいからじゃない。単に許せなかった。自分を。
この数年間。俺なりに全力を尽くしたつもりだった。あんなクソ野郎よりもずっと素晴らしいアヴィエーターになるのだと。けれども今わかることは、俺はあのミンチの足元にも及ばないという事実だけ。
…薄々、そんな気がしていた。だからきっと、ずっと何処かで、俺は出来損ないだという気分が抜けなかったんだ。→

トッ腐ガン ルスハンAU 

俺は一体何をしていたんだろう。一体、何を…泣きたくなってきやがる……。
「アタシさ。あの教官の…ハングマンの着艦。生で見たことあんだよね」
機体置き場の地面に体育座りして丸まってる俺に構わずフェニックスはいつもの調子で話しかけて来た。少しは空気読めよ。放っておいてくれオーラ100%だろうが…。
俺は両手で頭を抱えた。けれども彼女は俺の隣で胡座を掻いて「超〜〜〜キレーでさ。正直、あの笑い方がかなりキショいと思ってんだけど。でもホント、アレは美しかった。流石にあそこまでエレガントには一生かけてもならないかもしんない」と続けた。
「ところでアンタ、あの人と何があったの?」
彼女は機体の腹に手をかけて俺の顔を覗き込んでくる。彼女の方が年下だが、まるで立場はしっかり姉さんと手のかかる弟の構図だ。正直、誰にも言うつもりはなかった。なのに俺の唇は勝手に動いた。
「願書を捨てられたんだ」
「ハァ?なんで?」
そう。ずっときっと、誰かにそう言って欲しかった。俺が言わなくても事情を知っているはずのアイスおじさん、それを聞いてるはずのスライダーおじさん。俺を愛してくれる沢山の人達。でも彼らはこうやって一緒に怒ってはくれなかった。
ミンチは俺の大切な人を全て根こそぎ連れていく。勿論ミンチ自身も、だ。

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