各部屋に一本ずつ完備しているはずの孫の手が、今この瞬間にこの部屋には無い。ああ、この背中の痒みをどうすればいいというのか。布団に横たえた身体をぷるぷる震わせたところで、肌着と皮膚の間に発生する摩擦程度ではこの痒みは鎮まらない。目の前にそびえている本棚に背中をこすりつけたらいいのか。いやいや、布団から出るのはもう嫌なのだ。今さら身体を起こすのが面倒で仕方がないから、別室にあるはずの孫の手を取りに行こうともしないのだから、そのあたりの心根はわかって欲しい……って、背中の痒みについてうだうだと10分近く考え込んでいるネコの戯言など誰がわかってくれるというのだ……もう間もなく、午後も8時だというのに。