吉村昭『高熱隧道』読了。
凄絶だった。黒部川第三発電所建設のため、水路用と機材搬入用の二本の掘削することになるのですが、これが酸鼻を極める難工事で。
工事を現場指揮する技師の視点で語られ、事故自体の衝撃は無論、事故による人夫の仕事放棄や暴動への恐れもあって、緊迫感がただならない。
工事を始める前の崖に運搬用の道を作る段階で既に転落事故死が相次ぎ、トンネルを掘り進めると岩盤温度は160度を超え、ダイナマイトは自然発火でたびたび爆発し、泡雪崩で鉄筋コンクリート製の宿舎は消失し、地元の富山県は工事中止を申し渡すものの国策で工事は続けられ。
日中戦争の前年、226事件の年に着工されたこれらの工事によって作られた黒部川第三発電所は、2023年の今も稼働しているのですが。事故死を起こしても技師は工事を続けなければならない、それが仕事だからだ、みたいなセリフもあったのですが。
吉村昭の、精緻で鉄を叩いたような文章はいいものですね。
この工事、報酬は相場の10倍だったそうで、昔の日本はちゃんとお金を出して労働者を集めてたんだなあと思いました。人の命は軽いけれど。昔は命をお金で買ってたんだな。
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