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オルハン・パムク『わたしの名は赤』読了。
楽しかった! “1591年冬。オスマン帝国の首都イスタンブルで、細密画師が殺された。” で、犯人は誰だ、というフーダニット小説なのですが、推理小説として成り立っているのかどうかは、判断できない。殺された死体の一人称から始まってて、掴みはOK!
語り手が入れ替わり立ち替わり好き勝手語っていっていて、この中の誰かが犯人なのですが、話を追ううちにワイダニットも気になってきます。

解説にもあったように、イスラム版『薔薇の名前』ですね。細密画師たちが細密画についての哲学を滔々と語るのですが、これが興味深いです。
ルネサンス後の写実主義の西洋画がかなりの驚異と脅威をもって語られるのですが、この語られ方が楽しかった!

近世のオスマン帝国の、芳しい腐敗をひそめた薔薇と無花果の甘い香り、ひよこ豆のスープ、雑踏の喧騒、珈琲屋のいかがわしさ、落陽の都の鮮やかさ!

主要人物に、二人の幼い息子を持つ美しい寡婦がいるのですが、これがあっちこっちによろめいていて自己弁護能力も高いのですが、立場の弱さと逞しさを感じました。
お兄ちゃんのほうは、母親の名誉や父親の思い出を守ろうと頑張ってる感じなのですが、最後まで読むと報われてるのは弟のほうで。

んで、タイトルの『わたしの名は赤』の「わたし」なのですが、素直に読むとコチニール色素なんですが、この読み方であってんのかな?

コチニール色素は新大陸のものであり、コンキスタドールの結果もたらされたもなので、細密画にこの赤の色が使われているということは、その時点で細密画が西洋に侵食されているということになるのかしら。
(明治維新後、海外から輸入された合成染料の赤で毒々しく彩られた錦絵を思い出しながら)

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