『すずめの戸締まり』をみました。風景描写が美しく、絵にぴったりの抒情性豊かな音楽がついていて映像として完成されていてウェルメイド、鑑賞後に語り合いたい作品になっていました。広く支持されるものには理由がある。
神話的世界から抜け出てきたような遊行の「閉じ師」(荒ぶる自然を封じ、鎮魂を行う祈祷者)の青年を追う、震災遺児の高校生女子の神話的暴走の物語です。彼女の旅を助けてくれるのがみな生活感ある女性たちなのもよい。今どきっこたちの優しさと弱さと「自分なんて生きていて良いのか」と思うからこその暴走も、父性の不在と空虚も、トキシックなマスキュリニティに依らない倫理性の模索もさりげなく描かれて印象に残ります。
震災を消費している、と感じる人はあると思いますが、天皇制と天津神の物語ではないですね。新海誠は新海誠なので、実相寺昭雄的なものを期待したらないものねだりになります。無数のまつろわぬものあらぶるものに翻弄され、たまたま生き残ってしまったけれど生きていていいのだろうか、と生きることそれ自体に罪の意識を抱く無数の生者ひとりひとりが固有の生と使命を納得したい。そんな「小さき人々」の物語でもあるので、いろいろな人が感想をを言うことで現象として完成するのかもしれません。脚本巧者の作品です。先行作品も見て考えてみたいです。