だいぶ専門的な議論をするよ(要覚悟)
結論から先に言うと
「coinhive事件の最高裁判決で無罪が出たことで,一部界隈からは「当然」という声があがっているみたいだし,「これが有罪ならjavascriptは使えない」的な声もあがっていて,狂喜乱舞しているようだけど,そう読み取ったら間違いだからね」
というあたりを以下で説明したいわけさ。
で,専門的な知識が必要だ……と。
まず本件は刑事事件なんで,国の刑罰権発動を許すか否かの問題なわけ。刑罰権発動のためには,その人の行為(作為・不作為)が「構成要件該当性」を持ち,「違法性」を帯びていて,「責任」が認められるものでなければならないし,さらにいくつかの要件をクリアしないといけないんだけど……。
まずこれらの要件は全部そろわなければ刑罰権の発動が許されないという意味ではand条件なんだけど,検討の順番が決まっていて,「構成要件」「違法」「責任」の順で検討し,もし構成要件の段階で要件を満たさない→無罪ってなったら,もう他の要件を検討する必要はないんです。一部のコンピューター言語で複数条件の判定が処理系任せとか重みづけがないからどの条件からも判定していいというのがあるけど,刑罰権の判定はそれではないんです。
次に「構成要件」内で複数条件がある場合は,それは文脈によってand条件だったりor条件だったりするんだけど,今回のcoinhiveでは「反意図性」「不正性」がとりあえず問題になっているところ,この2つの条件はand条件なわけね。で,これは条件の検討順というのは存在しない場合。だからどっちから検討しても「本来は」いい。そしてどっちかが欠けても無罪になる。
そうすると今回の最高裁判決。不正性がないから無罪という結論を出すにあたって,反意図性があるってことをわざわざ言う必要って「全くない」んですよ。不正性がないってことだけ言えば十分だから。被告人側が「反意図性もない」って争ったとしても,「本件行為は,○○であることを鑑みれば,不正性が認められないから,その余の点を考慮するまでもなく犯罪とはならない。」でいいし,結論とは無関係の理由付けは書くべきではないとする裁判官の一派まで存在しているんです。(例として中野次雄「判例とその読み方」 http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641125346 ちなみにこの人裁判官枠で司法研修所教官をやっているくらいなので実は「一派が存在する」ってレベルではない。)
そして反意図性が存在することについては,一審も二審も認めている。
にもかかわらず最高裁もまた反意図性が存在するってことをわざわざ言ったのはなぜか?(傍論のはずなのに。)
coinhiveは反意図性が認められるものだという点を強調し,不正性が程度問題であることと合わせて,不正の程度が違っていたら有罪になっていてもおかしくなかったんですよってメッセージだと読み取るべきです。(だから裁判長が立法に携わった人で二審判決に激おこなんてえのは読み違い。)
別投稿で「裁判所の判断が一審から最高裁までこの点は一貫しているのはこれは重いです。」って書いたのもこのこと。
で,これを詳細に見ると,
・マイニングは閲覧に必要ではない
・マイニングに関する説明はない
・閲覧中にマイニングが行われることについて同意を得る仕様にもなっていない
・閲覧者にマイニングによって電子計算機が使用されていることを知る機会やマイニングを拒絶する機会も保障されていない
・計算機への負荷の程度に照らして一般の使用者がその実行に気付くことはない
・ウェブサイトの収益方法として閲覧者の電子計算機にマイニングを行わせるという仕組みは一般の使用者に認知されていない
・マイニングにより生じた報酬を閲覧者が得ることは予定されていない
などの点をあげて反意図性を認定したんだけど。
第1にjavascriptの特性なんか一個も議論になっていないんですよ。
「これが有罪になるとjavascriptが使えなくなる……知らんがな」
というのが裁判所の判断なわけです。
要はjavascriptがなんであろうと,上であげた事情があれば反意図性があるから,あとは不正性を満たさないようにしなさいよってことだし,「javascriptだとしょうがないんです」って言われても「本当にしょうがないなら使うのやめたら?」ってこと。
第2に今回不正性が否定された理由の1つに「閲覧者の電子計算機の消費電力が若干増加したり中央処理装置の処理速度が遅くなったりするが,閲覧者がその変化に気付くほどのものではなかった」というのがあるんだけど,これって同時に反意図性が認められる「計算機への負荷の程度に照らして一般の使用者がその実行に気付くことはない」という事情でもあるんですよ。反意図性も不正性もこれ単独で判断されるわけじゃないんだけど,他人のリソースを使う限り「反意図性か不正性かどちらかは認められうる」ってことなわけです。
ね,「当然無罪」とか言っている場合じゃないっしょ?なにせ一審でも無罪が出ているから「薄氷の勝利」というほどの氷の薄さではないにせよ,気をつけないと氷が割れて落ちるよって話なわけです。
以上の次第なんで,今後はたぶん「事前に承諾を求め,断ることができるようにする」ことで反意図性を回避することになるだろうなって予想につながるんですね。
立法は政策を実現させるための手段・ツールでしかないという立場で話しているので法解釈を論じると正統的法律学徒な人とは話が基本的にかみ合わないのは大学生のころから学んでいるはずなのに、いまだに繰り返すのは俺が愚かだからです(何。
持続的な物流ネットワークの構築に向けて フレイターの運航を2024年4月から開始 | ヤマトホールディングス株式会社 https://www.yamato-hd.co.jp/news/2021/newsrelease_20220121_5.html
自分は地上波民放テレビを見なくなってはや20年近く経とうとしているのです。CSスカパー契約もおそらく継続で15年以上経ってる気がする。
広告のアレ。一部ポジショントークは入っているが一応これをアレしておく。
広告クリエイティブやコミュニケーション設計が悪い広告が氾濫したせいであって「Web広告の是非」でもなければ「ターゲティング」の話じゃないんだよね。
なのにEU・米国・日本と世界中でターゲィングをどうにかする議論になってしまっている。
逆に「不快な広告を出さないこと」にアドテクがもっと使われるべき。
NFTという技術については何も感想は無いが、NFTをよくわからない推し方している連中が、日本のNFL(アメリカプロフットボール)コミュニティのタグである #nfljapan を汚染しているので、控えめに言って滅びて欲しいと思ってる。
ITインフラ系社内SEを生業とする昭和生まれ老人。20世紀の秋葉原は好きだったオールドタイプオタク。趣味は鉄道乗りつぶしとアメフト観戦。1994年から NFL New England Patriots ファン。
パケットの気持ちになって考えよう。 :-)
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