恋愛や与えられた家族の繋がりから自由になるキャラクターが一人くらい出てきてくれないかなって期待したけどそんなことなかった。
生死をさまよう最大のピンチのとき彼女を助けるのが同性だったらよかったのに。
男性も別に悪人ばかりではないしこうして男性らしさから下りていける人もいるんですよ的メッセージを与えようとしてるのかなって感じなので、まあ……気持ちはわかる、私向きの展開ではないけど。
レズビアンのキャラクターはいるのはいるけどフワッと彼女の存在を示唆して終わるくらいなら、そんなとってつけたようなことせずにど真ん中にセクマイを据えればよかったのに。そうなると結末変わっちゃうけども。もっと多様性を出せただろって思ってしまう。
キム・リゲット『グレイス・イヤー』私向きではなかったけれど一気読みしたくなる面白さだった。
内容は冒頭に『侍女の物語』と『蝿の王』が引用されていることがすべてを物語っています。侍女の物語的社会で人為的に蝿の王的状況に追い込まれる少女たちの話です。
私が自分向きではないと感じたのは、結局女性が子をなすことへの肯定的な価値観が揺らいでいないことと、恋愛と家族の縛りが息苦しく感じたことに起因します。
あの社会でシスヘテロ以外の存在になることは困難だとは思いますし、それでもその規範から外れるキャラクターや血の繋がらない人間で構成された家族の概念が登場することには大きな意義があるとも思いますがなんにせよ恋愛が大きな軸になり、主人公はマジでピンチのときは男性に助けられる構図になっているので(女性も助けを与えるけれどそれはもっと控えめで穏やかなものである)結局窮屈な印象が残ってしまいました。
そのあたりに目をつぶれば、というかまあ上記のこと気にせず読める人は読めると思うので、はらはらしながらページをめくって主人公の行く末を追いかけずにはいられない小説になっていると思います。
やっぱり自身の感覚としては実感できないことはあるし、マジョリティ/マイノリティの優位性の差を無視して、トランスジェンダーの人にもシスジェンダーの人と同じように色んな人がいてみんなそれぞれ感じ方や考え方が違うんだねなんてまとめてしまうのは傲慢で乱暴だとは思います。ただ、全体とおして深く感情や思考の掘り下げられた豊かな語りを読んでいくのは稀有な経験で……なんていえばいいかな、シスジェンダーを前提として組み立てられた思考や言語とはまたずれたところにマイノリティとしてのそれがあって、私が本当には触れられないはずのそれを追いかけられたような錯覚がしています。
これもわかったような気になってる傲慢なマジョリティ仕草だったら申し訳ないんですが……。『トランスジェンダー問題』から続けて読んでよかった本だと思います。こうして読書する機会を与えてもらってありがたい。往復書簡続いているそうなので、また同じように続きを読むことができたらうれしいです。
五月あかり・周司あきら『埋没した世界』読む。
シスジェンダーという圧倒的にマジョリティにいる立場で安易にわかったふりしたくないな、なんて考えて私はこれをシス/トランスの区別を前提とした他者の物語を読むつもりだったのですが、それぞれ異なる経験をして異なる感じ方や考え方を育んできた生身の人間として語られる手紙を読んでいると、当然のことながらトランスジェンダーという属性だけで括れない個人の人生があることを思いましたし、他人との関わり方やセクシュアリティについて共鳴してしまう(なんて言えばいいかな? 重なるだと近すぎるし、共鳴でもまだ近い)部分もあって、読み始めて結構早い段階で最初のシスジェンダー私/他者であるトランスの人たちという前提は崩れました。
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