けもの道だな、おれの。
二、三度来ただけだが、おぼえはある。
だが、どこへ行こうとしたのか。
そこへは行けたのか、行けなかったのか。
そもそも、どこへ行くつもりもなく、ただ来ただけか。それなら、いかにもおれらしいが。

ふと見ると、赤いカラスウリの下がった茂みのむこうに、別のけもの道。
人のにおいも混じって、どこへ行くのか行かないのか。

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他の関心もあってミシェル・レリスの『獣道』(後藤辰男訳)を取り寄せた。
原題は「Brisées」。巻頭にフランス語辞典の一節が掲げてあり、邦題の「獣道」とはかなり意味がずれている。

このずれについての訳者の弁は次のとおり。
《語義的忠実さからすれば、「折り枝(標識用の)」というのが穏当かもしれない。だがこれでは語義の一つの背後にある猟犬を使っての狩猟のもつ緊迫感、殺意、現実に起るであろう虐殺の印象は伝わりにくく思われ、Briser→Brisé→Brisées(折る→折られたところの→折り枝)という音が含む切迫感、不可逆的印象も何か間遠くなるように思われたのである。》

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