国民政府の No.2 であった汪兆銘は、蒋介石を裏切って日本の傀儡政権をつくり、南京・上海周辺だけを治めた人物――として知られる。彼の日本に対する考えは、「日本と長く激しい戦争を続けたら、その間に中国はソビエト化してしまう」というもので、歴史は彼の恐れたとおりに推移した。
のちに汪兆銘が漢奸(中国人の敵)として非難されたときの、汪兆銘夫人の反論。
「蒋介石は英米を選んだ。毛沢東はソ連を選んだ。汪兆銘は日本を選んだ。そこにどのような違いがあるのか」
以上、加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』による。
汪兆銘夫人の論は、「正しい者が勝つのではない。勝った者が正しいとされるのだ」と一般化できる。勝者はぜったいに口にしようとしない真理。