謡曲「土蜘蛛」の前半。
病に伏している源頼光を見知らぬ僧形の者が訪れる。じつは蜘蛛の妖怪である。
僧 「いかに頼光、御心地は何と御座候ぞ
頼光「不思議やな、誰とも知らぬ僧形の深更に及んで我を訪ふ。その名はいかにおぼつかな
僧 「おろかの仰せ候や。悩み給ふもわがせこが来べき宵なりささがにの
頼光「蜘蛛の振る舞いかねてより、知らぬといふになほ近づく。姿は蜘蛛の如くなるが
僧 「かくるや千筋の糸筋に
僧の出現を怪しむ頼光に、僧が「愚かなことをいうものだ。そなたが病に苦しんでいるのは蜘蛛のせい――」と言いかけると、頼光は「そんなものは知らぬ」と返すのだが、僧は正体をあらわしてさらに近づき、蜘蛛の糸を投げかけて頼光を絞め殺そうとする。
ここにある「わがせこが来べき宵なり」以下のフレーズは、『古今集』にある衣通姫(そとおりひめ)の恋歌「わがせこが来べきよひなりさゝがにの蜘蛛のふるまひかねてしるしも」の転用。今夜はきっとあの人が来てくれる、蜘蛛のようすでそれがわかるの――というほどの意。
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