最近の『天竺徳兵衛韓噺』の上演は、昨年10月、歌舞伎座で。
以下はその劇評から引用。この説には同意できないが、いろいろ考えさせられて興味深い。

《この芝居は朝鮮、キリスト教国と日本の国際的な政治闘争と、その中での国際結婚が問題なのである。この芝居の初演の時には、あまり早替わりやけれんの仕掛けが鮮やかなためにキリシタンバテレンの魔法が使われているという評判が立って町奉行所が手入れをしたという。今まで私は、これが南北や劇場側の宣伝だったとする通説を信じて来た。しかし今日この芝居を見ていて私は、南北は案外本気で朝鮮やキリスト教国の脅威を感じていたのではないだろうかと思った。少なくとも国際間の国民感情の齟齬を指摘したかったのではないか。》――「2023年10月歌舞伎座 - 渡辺保の歌舞伎劇評」
watanabetamotsu.com/2023年10月歌舞

フォロー

天竺徳兵衛が父親から受け継いだ日本への敵意は、当時の国際情勢に対する南北の認識にもとづくとするより、芸能その他の表現活動を抑圧する政府・警察への南北自身の叛心に裏打ちされたものと見たい。

《歌舞伎の歴史をながめるとき、私はいつも奇異の感にうたれます。
 出雲の阿国が京都の四条河原で歌舞伎躍(かぶきおどり)の興行に成功したのは、慶長八年(一六〇三)のことで、これが歌舞伎のはじまりとされていますが、その同じ年の二月に、徳川家康は征夷大将軍になり、江戸幕府の基を開いているのです。
 歌舞伎と徳川幕府、言い換えれば民族演劇と封建政治権力との、二つの相いれない宿敵同士が、同じ年にその出発点を持ったということは、歌舞伎の運命を象徴する出来事であるかのように私には思えてくるのです。》――武智鉄二「〈かぶき〉はどんな演劇か」

この「相いれない宿敵同士」の抗争を南北は引き継いだ。四条河原の歌舞伎躍から200年。

ログインして会話に参加
Fedibird

様々な目的に使える、日本の汎用マストドンサーバーです。安定した利用環境と、多数の独自機能を提供しています。