《世界に先駆けて発明された廻り舞台をはじめ、『楼門五三桐』の山門の迫り上げや『青砥稿花紅彩画』の大屋根の‹ガンドウ返し›、『忍夜恋曲者』の屋体崩しなどのように、巨大な大道具が俳優の演技と一体となって動き出す面白さは、大道具の大きな魅力である。もちろん、現代の歌舞伎は、近代化の苦闘を通じて作品のテーマや全体の統一性の大切さを知っている。それでもなお大道具大仕掛けや華麗な衣裳の誇示、宙乗りなどを温存してきたのは、これが歌舞伎の本質的魅力であり、かつ作品のテーマやモチーフにふさわしい使い方を選んでいるからである。『楼門五三桐』で五右衛門が迫り上がるのは天下を覆さんとする叛逆のヒーローの巨大な図像化であり、『忍夜恋曲者』の屋体崩しは叛逆の夢が挫折する表徴である、というように。》――日本俳優協会『歌舞伎の舞台技術と技術者たち』