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レニングラードの壁抜け男

ユーリー・ウラジーミロフ(1909-1931)の短編小説『スポーツマン』(1929?)の主人公イワン・セルゲーエヴィチは、壁をすり抜ける能力を持っている。
小説の前半は、その特殊能力によって主人公が社会的成功を収めていく過程。後半は一転して、不運の連続。その折り返し点に置かれているのが、見知らぬ郵便配達人と居酒屋でかわした次の会話。

「うかがいたいのですが」と郵便配達人。「あなたは何ができますか? 何のためにこの世に生きていますか?」
「私はね」とイワン・セルゲーエヴィチ。「壁を通り抜けることができます」
「なるほど」と郵便配達人。「分かりました。でもそれは問題の科学的な解決ではありませんね。純然たる偶然です」

これ以後、つぎつぎと降りかかる災難。
帰宅したイワン・セルゲーエヴィチが妻に「人生の目的はどこにあるのだろう」と問うた直後、屋根から落下したトタン板が妻の耳を削いでしまう。これが第一の災難。なおも問題を考えつづけた彼が、ようやく「人生の目的」を「どうだっていい」と退けたとき、すでに妻は事切れている。
その後も彼は壁抜けを続けるが、失敗ばかり重なって、ついには――

「スポーツマン」は2ページに足りない掌篇とのこと。
粗筋は次の論文によった。
小澤裕之「壁を抜ける、壁を作る――オベリウ派ウラジーミロフとハルムスの創作について」
repository.dl.itc.u-tokyo.ac.j

作者のユーリー・ウラジーミロフは、ロシアの前衛的文学集団オベリウ派に所属。
オベリウ派については、こちらに短い記事あり。
ja.wikipedia.org/wiki/ダニイル・ハルム

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