ブレンド豆のハンドピック作業(状態の悪い豆を取り除く)
ちみたろちゃんは真面目にお手伝いしてくれるけど、ちみのりちゃんは早々に飽きています……
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借りていた本を、ようやく読み終えた。
電話を一本入れてから家を出る。ぶらぶら道の端を歩いていると、白い花を付けた枝が道まで伸びていた。梅かなあ。見事な枝振りを眺めていたら「それ、梅じゃなくて杏なのよ」と、見知らぬおばあさんが教えてくれた。
礼を言い、少しだけ世間話をして別れ際、すぐそこの店の梅大福が美味しいとの情報をもらった。ここよ、と手にした紙袋を掲げてくれる。
知らなければ通り過ぎてしまいそうな小さな店で、評判の梅大福と定番の豆大福に草大福を買った。ふっくらして、美しい。
ほくほくと店を出た途端、道路に大きな影が落ちた。
「よう」
紙袋から視線を上げれば、これまた大変美しい相貌が、ぼくを見下ろしていた。「待ちくたびれて迎えに来ちまったぜ」
彼はぶっきらぼうに「貸しな」と言って、ぼくの手から本の入った手提げを取り上げた。つまり、本は持ち主の元へ返ったことになる。
「オススメを持ってきたんだ」
これ、と紙袋を掲げ、それから「それ」と彼が持つ手提げを指さす。借りた本と一緒に、古いSF小説が入っている。
「きみに借りた本、面白かった」
すごく。
熱を込めて伝えると、彼は満足そうな笑みを薄く浮かべ「ああ」と言った。
その顔を見たとき、借りていた本の最後の1ページが、ようやく閉じたような気がした。
あっと思ったときには遅かった。
彼は、きれいに割れた薄いグラスの欠片を手に、やれやれだぜと首を振る。落下を防ぐ方法はあれど、力加減は自分次第。考え事をしながらグラスを拭いた己が悪い。
たかが器一つ、普段なら大した問題ではないが、今日は大問題だった。
これから訪ねてくる友人は、この極端に薄いグラスで飲むビールが何より美味いと言う。割れたといえばグラスより怪我を心配してくれるだろうが、他でもない自分が許せない。ちょっぴりでも、友の表情を曇らせたくないのだ。
彼は、破片を片付けると帽子を手に飛び出した。近くの百貨店まで車を飛ばせば、ギリギリ間に合う計算だった。
ところで、彼は強運の持ち主と呼ばれている。今も、目当ての品がディスプレイされた店を早々に見つけたから流石だ。
しかし、運命の女神は気まぐれだった。彼の強運も、一吹きで飛ばしてしまう。なにしろ、店に入った瞬間お目当ての品が売れてしまったのだから。最後の一つを逃し、すでに余所へ回る時間は残っていなかった。
苦い思いで戻ると、ドアの前で友が待っていた。様子を敏感に察して案ずる友へ、何でもないと片頬を上げた彼が「それは?」と視線を落とせば、友は笑みを浮かべて紙袋を掲げた。
「うすはりグラス、セットで貰ったから持ってきたんだ」
365日承花を胸に!生きている!成人済み。 無言フォローですみません。たまにぽろぽろっとお絵描きや妄想を落としていきます。無断転載禁止。DO NOT repost or use my artworks.