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借りていた本を、ようやく読み終えた。
電話を一本入れてから家を出る。ぶらぶら道の端を歩いていると、白い花を付けた枝が道まで伸びていた。梅かなあ。見事な枝振りを眺めていたら「それ、梅じゃなくて杏なのよ」と、見知らぬおばあさんが教えてくれた。
礼を言い、少しだけ世間話をして別れ際、すぐそこの店の梅大福が美味しいとの情報をもらった。ここよ、と手にした紙袋を掲げてくれる。
知らなければ通り過ぎてしまいそうな小さな店で、評判の梅大福と定番の豆大福に草大福を買った。ふっくらして、美しい。
ほくほくと店を出た途端、道路に大きな影が落ちた。
「よう」
紙袋から視線を上げれば、これまた大変美しい相貌が、ぼくを見下ろしていた。「待ちくたびれて迎えに来ちまったぜ」
彼はぶっきらぼうに「貸しな」と言って、ぼくの手から本の入った手提げを取り上げた。つまり、本は持ち主の元へ返ったことになる。
「オススメを持ってきたんだ」
これ、と紙袋を掲げ、それから「それ」と彼が持つ手提げを指さす。借りた本と一緒に、古いSF小説が入っている。
「きみに借りた本、面白かった」
すごく。
熱を込めて伝えると、彼は満足そうな笑みを薄く浮かべ「ああ」と言った。
その顔を見たとき、借りていた本の最後の1ページが、ようやく閉じたような気がした。

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