勤めをしていた頃、台湾出身の同僚がいた。彼女は台湾の大学を出た後しばらく現地の出版社に勤めたが、ある日、自分の心の声を尊重して仕事を辞め、日本に来て大学院に入ることにした。
彼女と煙草を吸っていたとき、日本の学生や業界の人々(出版業界の会社だった)の印象を訊ねたところ、「日本の人たちは意見をはっきり口にする」という彼女の返事に驚ろかされた。こちらはなんというか、日本の人たちは意見を表に出すことに消極的だという印象を持っていたので。
これは彼女の私見に過ぎないのかもしれないけど、台湾の人たちは政局が変わる度に米国寄りか中国寄りかに振れるシーソーのバランスに応じて身の処し方を変えながら、明確な意見表明を避けようとする傾向が強いとのことだった。状況がどっちに転んでもいいように、クリティカルな意見はそっと飲み込んで語ろうとせず「いま」に焦点を当てているんじゃないかというのが彼女の考えだった。
彼女は8年前に台湾に帰国してしまったけど、それでもときどき仕事で日本に来たりするので、今度あったらまた話を掘り下げて聞いてみよう。