『関心領域』(2023)
監督・脚本/ジョナサン・グレイザー
原作/マーティン・エイミス

大きなおうちには召使が二人。きれいに手入れされた広い庭。夏になれば子供たちを連れて近くの河でピクニックや水遊びを楽しみ、冬はふかふかの暖かいコートを着込んで散策する――誰もがうらやむ素敵なおうちの真横では、アウシュビッツの焼却炉がいつも低く唸っている。

立川イオンシネマの極上音響で観た。定点カメラで記録したような映像が続き銃撃戦もカーチェイスも凄腕音楽家も出てこない映画なのに「極上音響」で上映されていた理由は、この映画の主役は音響にあるからだ。

銃声、汽車の音、悲鳴、怒声、警備の連れる犬の鳴き声、そしてなんだかよくわからない、船のエンジンが動いているような低い音。家の主でアウシュビッツ局長のルドルフ・ヘスは、自宅に軍人を招き、いかに効率よく焼却炉を稼働させるかの計画を立てている。ふたつの炉を交互に動かして24時間体制で稼働する計画だ。
低い音は映画の最初から最後までずっと響いている。

数々の音の正体は、最後まではっきりと明かされることはない。家の住民たちが身に着ける服からでてくる金歯や口紅が、畑に撒かれる灰が、靴底の血が、川底にみつかる骨が、一体「何」なのかは一切示唆されない。

続)

『関心領域』続き 

それでも、家の住民たちは、それらが「何」なのかをよく理解している。分かったうえで見えないふりをし続ける。使いかけの口紅は念入りに拭うし、川からあがれば急いで風呂に入って皮膚が痛くなるまで身体をこする。壁のむこうで煙がたてば窓を閉める。そうしながらも、この生活が末永く続くことを願う。

もし、私があの家の主だったなら、気づけるだろうか。いや、気づいたとしてやめられるだろうか。自分の生活を維持するために誰かが死に続けているのだと知って、ちゃんと絶望できるだろうか。下手なホラーよりもすごく怖い映画だった。

とりあえずいまは『<悪の凡庸さ>を問い直す』が読みたいです。

あと、これは好みの問題だけど、私は昔からシンセサイザー系の音がうょんうょん鳴ってる系の演出が得意ではなく、この映画で使われていた音はどっちかというと苦手なやつだったので、序盤からずっと腹の底がむずむずしていた。なんかぞわぞわするねん、いや、そういう映画だけども。

フォロー

『関心領域』続きの2 

唯一、明確に善なる存在として出てくるのが、リンゴをくばるシーンとピアノを弾くシーンなんだけど、リンゴのほうは後に悲劇を引き起こすし、それを見た少年の台詞がまたしんどいし(冷笑仕草だし……)ピアノのほうは家主に無断で弾いて叱られないのか気になっちゃったしで、いいシーンなんだけど微妙に語りにくいっていうのはあったかなあとおもった。これはわたしの読み込みが浅いかもしれない。

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