コイカラ12(あむあず)
なんとなくではあるが事情はわかったという沖矢が、降谷が投げ飛ばして気を失っている男から梓のカバンを取り上げ、男を警察に連れていくよう指示をする。
遠巻きに見ていた若い衆を名指ししてお願いをすると、ひったくり犯はあっという間に引きずるように連れて行かれた。男が引きずられて行くと、同時に梓たちを遠巻きに見ていたギャラリーも解散する。その場に残ったのは、梓と沖矢、それからまだ地面で伸びている青年の三人のみ。
「さて、彼はどうしましょうね」
ずっと石畳の上に寝かせておくわけにはいかない。ましてやここは道路の真ん中。
「沖矢さんにお願いがあります」
どうしようかと言いながら立ち去る気配はない沖矢に、梓は青年を梓が働いている喫茶ポアロまで運んでくれないかとお願いをする。
梓のお願いが予想外で沖矢が驚いた顔を見せた。
「ポアロへ?」
「ええ。ひったくりを退治してくれた恩人さんですし、それにその……」
言いづらそうに口ごもる。もごもごと口の中だけで続きを言うかどうかを迷っている梓に、沖矢は先を促すでもなくただ黙ったままで、かといって立ち去るでもなくふたりの様子を見守る彼に白状した。
「倒れてしまったのは、私のせいなんです!」