コイカラ01(あむあず)
『看板娘に恋した王様の溺愛は、空振りばかりみたいです。』
「梓ちゃん、ごちそうさん。お会計たのむよ」
「はーい、ただいま!」
目が回るような忙しさのランチタイムはありがたくも毎日のことで、カウンター席と四人がけのテーブル席、あわせて二十席ほどの店内は常に満席に近い状態を維持している。
「いつもありがとうございます。午後のお仕事もがんばってくださいね」
カウンター席にひとりで座ってランチを食べていた男性は、ぴしっと折り目正しく華やかなその身なりから想像するに、これから何か大きな仕事が待っているのだろう。言って笑顔で見送る梓に応える彼の笑顔はどこか緊張を感じさせる硬さがあった。
カラン、カラン。開くドアに合わせて、ドアベルの軽い金属同士がぶつかる独特の音が店内に響く。男性を見送ると、入れ違うようにまた新たにもうひとり、今度は年配の上品な女性が店に入ってきた。
「こんにちは。いま席の空きはあるかしら?」
おっとりと穏やかな口調で尋ねられる。女性は店の中をちらりと見て、想像以上に賑わっていることに驚き、人気の店なら期待しても良いかしらとふふと笑う。期待されたら、喫茶店の店員としてはその期待に応えないわけにはいかない。