岩波文庫「太平記(四)」一応文体の整合性は取ってあるが、ジャンル違いの小話が混在する混沌とした草稿集、それが太平記。高級感がクオリティがと言い出すと文句ばかりですが、文章に勢いがあり、昔のジャンプ連載のように続きが気になってしまう。そしてなかなか終わらない。
政治的な統一性のなさも、新聞や週刊誌の記事を数十年分つなげたらこんな感じかもしれない、というリアリティがあります。初期にあれだけ持ち上げられていた後醍醐も、正成の怨霊によれば「元より摩醯首羅(シヴァ神)の所変にておはせしかば、今は帰って欲界の第六天(摩醯首羅はときに仏法の敵である第六天魔王と混同される)に御座あり」どうやら魔界転生してしまったらしい。おやおや。戦争が終わればマスコミは手のひらを反すところまで予言している。通しで全部読んでいれば皇国史観の手本にはなりようもない。今も昔も古典のエモいところだけ抜き出してプロパガンダに使う奴は要注意だ。
リアルな軍記物語から一転、3本の聖剣を鬼の王と化した正成から守る田舎武士ミッションが始まったり、壇ノ浦に沈んだはずの草薙剣(三鈷束という密教的な説明がついているので絶対偽物)が浮き上がってきたり、天狗の語る未来記が出たり、など伝奇色が強まる。JRPGか。
あと、
尊氏&光厳「比叡山……、うぜえ……」
わかる。あそこ以外の宗教的権威を作る必要があって天龍寺を建てるのですが、いかんせんお山から近すぎてさまざまな妨害や不審火に遭う。
数百年後、家康はその教訓を糧に日光へ東照宮を建てる。つながる日本史。
書いている人は浮ついたことが嫌いな面倒臭い坊主なのか、橋をかけるためのチャリティー興行で作られた桟敷が崩れてたくさんの死者が出た話に同情の念が全くない。多分万博で石の屋根が落ちてきたらキャッキャして書き立てるタイプだぞ。
戦争がひと段落して、ようやく行った楽しかったお芝居が一転してしまってどんなに悲しかったろう、と、家庭持ちモブとしての私は泣かずにはおれない。
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