なお二人ともドストエフスキーと縁があり、ソフィア・コヴァレフスカヤは姉のアンナがドストエフスキーにこっそり小説を出したことがきっかけで家族ぐるみの付き合いが始まる。ソフィアはドストエフスキーに恋心を抱いていたものの、ドストエフスキーはアンナに夢中だったが、アンナからは「あの人と結婚する人は、自分を捨てなければならないけれど、わたしは自分自身のために生きたい」という理由で振られている。アンナはのちに革命家と結婚し、パリ・コミューン下のパリに行った。
ナジェージダ・スースロヴァはドストエフスキーの不倫相手のアポリナーリヤ・スースロヴァの妹で、ドストエフスキーからの手紙が残っている。
当時ドストエフスキーは人気作家で、アンナとソフィアの姉妹は二十歳以上年下だったのだが、アンナの小説への返事として書いた手紙がほんとに心のこもったいい手紙で、相手を子供扱いもしてないし初心者扱いもしてないんだよね。それでいて瑕疵はきちんと指摘するし、その上で心のこもったエールを送る。
ドストエフスキーからの手紙と小説の報酬は父親を激怒させる。娘が見も知らぬ紳士から金銭を受け取ったことは「この上もない恥ずべき不快なこと」で、父親は「知らない男と手紙のやり取りをしたり、親たちにも内証でその人から金をもらったりする若い娘には、どんな注文でもできる。いまお前は作品を売った。しかしいつかはお前の体を売らないとも限らない」と非難した、というのも時代性を感じさせるエピソード。この後父親は娘の小説の朗読を聞いて態度を軟化させ、手紙を見せるという条件付きでドストエフスキーとの文通を許した。