高校日本史の用語集レベルの話なのかもしれないけど、蔦屋重三郎の半生は(インターネット普及後に読むと)面白い。

古くから「物之本」と呼ばれて全国流通した儒書や歴史書、医書などの「役に立つ本」に対して、彼の同時代に成長市場だった「地本」は、都市圏内に流通した大衆向けの趣味・娯楽書で、奢侈禁制のあおりを受けやすい「役立たずの本」だった。

蔦屋重三郎は後者から前者に進出しかけたところで死んだらしい。晩年に本居宣長の初期作を刊行してもいる。生まれ育ちはよく分かっていないものの、就職してしばらく当初は吉原遊郭で貸本屋を営んでいて、ある時に別の版元が手がけていた「風俗店の人気タレントの写真集」を安売りするところから起業。

その後はいくつか(吉原ローカルの観光ガイドや音楽入門などの)実用書を手がけたあと、狂歌コミュニティに深入りして実力のある作家を発掘。エンタメ部門を立ち上げて、過激すぎて政府から発禁・財産没収されるくらいまで成長させた、と。

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面白い細部は(たぶん)次のNHK大河になるからそちらを観てもらえばいいとして、身元不明・成り上がり・早熟早逝・商才・下世話・サロン・面倒見◯・反権力……と、ポップカルチャー好きが惹かれそうな属性に事欠かない生涯だなと思う。

菊池寛や堤清二、岩田聡がそうであるように、ひとつの文化の流行の頂点に・高所で・当事者として立ち会った経営者だから、文化史を語るときにも欠かせないし。

先行研究者はめちゃめちゃ褒めてるけど、後世からみると、経営者としてはこれといって独創的な発明をしたわけではなく、基本に忠実な慎重派という感じがする。ただ、ハイプサイクルの頂上が見えていて、キャズムは超えそうで超えない、くらいの潮流に居合わせるのが上手い。「野生の嗅覚」がある。

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