書き出しから曖昧な「やさしさ」に決別が告げられるこの本では、他人との出会い損ねと出会い直しが何度も描かれる。抽象的な通念からくる「なんだこいつ」という反感が、時間の経過とともに具体が積み重なって「こうだったのかもしれない」に変わっていく。そのうえで語られる「人を信じよ」という言葉の重み。ふわっとした想像の圏域に留まり踏み込むことをしない「やさしさ」の外側に、ひとつの理屈ではとても割り切ることのできない多面的なひとりひとりの相貌が立ち現れてくる。この本の「信じよ」とは、目の前のその人とちゃんと関係せよという激励だ。