『サラゴサ手稿』って岩波さんから「真正版」が全訳されていたけれども、今回の創元ライブラリ版との違いは何? と思っている方向けにざっくりお話するなど。

長らく散逸し行方不明だったポトツキの自筆原稿は2002年に発見され、執筆時期と内容の異なった「1804年版」と「1810年版」がまとめられました。このうち「1810年版」を底本として全訳されたものが岩波文庫版です。

今回の東京創元社による文庫版は底本を調べてみた所、ヨーロッパ各地に散逸した複数の草稿を基として、矛盾や隙間のある部分を1847年にエドムント・ホイェツキによって訳されたポーランド語版によって補われた「1989年版」を全訳したもののようです(「異本」と銘打っているのはこの為)。

工藤幸雄先生訳は1980年に国書刊行会より出版されたものがありますが、そちらの底本はロジェ・カイヨワによってポトツキ本人の筆と分かる冒頭~14日目のみを公開した「1958年版」であった為、それともまた異なっているわけです。

版が違えば中身も異なる奇書、読み比べてみてはいかがでしょう?

『サラゴサ手稿〈上〉』
ヤン・ポトツキ 著
工藤幸雄 訳
創元ライブラリ
tsogen.co.jp/np/isbn/978448807

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そう言えば国書刊行会の『サラゴサ手稿』は「世界幻想文学大系」の一冊だから、国立国会図書館デジタルコレクションの個人送信サービスで読めるようになっていないか? と思ったけれども残念、「幻想文学大系」は第一期の一部しか公開されていませんでした……(『サラゴサ手稿』は第二期所収)。

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