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「ケイコ 目を澄ませて」を観た。たいへん良かった。荒川区のボクシングジムを舞台とした、生まれつき聴覚に障害のあるケイコという名のプロボクサーのお話で、川辺の景色のザラっとした質感と抑制された音響が印象深かった。ケイコがデジカメを操作しながら母親の撮った自分の試合の記録写真を確認するシーンで、徐々にカチカチというボタン操作のSEがなくなりやがて無音になる演出や、ケイコの友人同士の手話でのお喋りには字幕がつかず、一気にこちら(非手話発話者)が内容を推測して「読む」側になるという転換も面白かった(たぶん手相の話題で盛り上がっていた)。言語によって世界が複層的にあるという手触りと、川の上を高架の首都高が走る墨田や荒川の景色がなんとなく響き合っているようにも見えた。北千住や浅草の見慣れた街並みがたくさん出てきて荒川区のヒーローとしては様々な感情が忙しく動いたし、最後のシャウトは涙が出た。ケイコにボクシングの才能はないと記者に語る会長発言は我々に生まれながら所与のものとして与えられた「やっていくしかなさ」にも言い及んでいると感じたし、俄然やっていくしかないだろう。帰ったら私も爪を塗りたいと思った。

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