竹内洋の「教養主義の没落」という本に、和辻哲郎が、対話体のエッセイの中で、教養の浅い若者にゴリゴリの教養マウンティングを仕掛けるくだりが紹介されていて面白い。若者は自分の創作がやってみたい、しかし和辻哲郎に「その前にまずは世界の無数の傑作の前にひざまずき給え」と一喝され、「文化の重み、わかってきたっす...」とこぼして若者は創作意欲をクールダウンさせる。私自身がまさに見えざる教養主義者を勝手に内面化させ、「もっと万事に通じてから作り始めなさい」との内なるゴーストの囁きを、自分の臆病さの言い訳にして何年も何も作らず微睡んでは人生を空費した、リアル山月記さながらの実績があるので、この辺りの話は割と刺さる。教養主義については様々な議論があると思うし、実際難しい話ではあるが、私の場合は「この人には逆立ちしても敵わない」という一人の先輩からたいへん多くの事を教わった、ありがたくもハードな時間がなければきっと作れなかった物、感じられなかった事が山とあるので、もののけ姫のサン風に言えば「教養豊かな某先輩は好きだが、マウントをとる人間は許せない」というスタンスになるかも知れないしならないかも知れない。