朝から水が止まっている。水道局に電話をかけたが支払いに問題はなく、管理会社によれば原因不明の断水でありごめんなさいとの事。洗濯がしたかったので悔しいし、原因がわからないのは怖い。部屋でぼんやりしながら、現在は廃墟となった亡父のアトリエは井戸水で、使い過ぎるとすぐに水が枯れ難儀だった事、などを思い出す。古めかしい造りの日本家屋の、北西の角にある深い井戸は、蛇口を捻るとけたたましいモーター音を響かせて、家のあちこちに水を届ける。そこは土間で、ひんやりといつも暗く、吊ってある緑の傘の電灯は寂しく、甲高いモーター音は異様な鳴りをして恐ろしい。最近「IT」の原作をダラダラ読んでいるが、アメリカの子供が地下室を怖がる感覚ってこんな感じだろうか、と適当な想像をする。怪談やホラーに井戸がつきものなのもわかるような気がする。怪奇と言えば、庭の流しで、掘り起こした野菜を洗う為に、山の猿たちが勝手に蛇口を捻って水を使い、井戸を枯らした事もある。夏には冷たく、冬には温かい井戸水だが「枯れる」という概念が今では遠くに感じられ、不思議な感じがする。とりあえず私はトイレに行きたいので一刻も早い復旧が全力で望まれる。