祖母の十三回忌があった。終わって親戚と、亡父のアトリエを今後どうするかについて話した。京都の外れの山奥の、小さな村落の片隅に建ち、老朽化は近年著しく、ある日突然誰も来なくなったまま時が止まって廃墟となったこの家は、小学校時分までは毎週末遊びに行けるささやかな別荘めいた自慢のスペースだった。近くに田んぼがあり、そこで捕まえた沢山のカエルやイモリを父と育てた。いやほとんどの世話は父がした。もっと小さい頃は森でカブトムシを捕まえた。さらに幼い頃は犬がいた。年老いた犬は嵐の夜に死に場所を探して脱走したが、父が一人森へ分け入り何時間もかけ探し出して帰ってきた。やがて犬は死に、もう少し山を登った茂みの奥に彼を埋め、そこに丸くて大きな石を置き墓とした。その石に油性マジックで「ムク」と私が書いた気もするし、書いていないような気もする。生きていると交代で死んでなくなる命が沢山ある。形で残ったアトリエは、今では解体費用に頭を悩ます巨大な遺物だ。屋根が抜け空が覗くほど朽ち果てたこの家に、誰も二度と住めない。週末遊びに行く場所でもない。いつの間にこんな事になったのかと驚くが全てが現実であり先に進むより他ない。