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文化の脱走兵 

奈倉さんの書く文章が好きで思わず手に取ったけど、本当に買ってよかったと思った。

著者がロシアや文学を心の底から愛しているのはこの本からも伝わるけれど、私にはそれ以上に著者は人とのやり取りや自然の移り変わりといった、日常そのものを愛しているのではないのかと感じた。

だからこそ、そんな日常をいとも簡単に壊してしまう戦争や原発といった存在を憎んでいるのではないのかと。

その中で印象に残ったのが、ロシアとウクライナの戦争が続く中で、匿名性が高いネットゲームの世界においては、ロシアやウクライナを含めた様々な国の人が終わらない戦争への愚痴をこぼしつつ他愛のない世間話にも花を咲かせるエピソードだ。
ネットの匿名性自体ネガティブな文脈で使われがちだが、匿名でいられること場所が一種のセーファースペースとなっている人がいるということも忘れてはいけない。

そして、電力会社が招待したツアーに参加しつつも、原発反対運動を貫いて原発を遠ざけた巻の山狸に感心しつつ、原発を受け入れてしまった柏崎に想いを馳せて「柏崎原発の人類の当事者」になり、「柏崎の狸」になるために柏崎に引っ越した著者の行動力に感心してしまった。
これからの社会、私たちは狸となって権力者を化かすことが必要になるかもしれない。

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