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小熊英二『清水幾太郎』(御茶の水書房、2003年) 

もともと小熊氏の著書『民主と愛国』に組み込む予定だった清水幾太郎論が、諸事情で割愛されることになったので独立して公刊したもの。

思想・立場を幾度も変転させた清水のそのスタイルがいかに形成・展開されていったのかを簡略に論じている。清水は庶民という立場を自認しており、高みに立って説教したりする知識人に反発を覚えつつ、憧憬もする。知識人から軽んじられるこの境遇から抜け出るには自分も知識人になるしかないのだと。学問や文章、名声はそのための手段でしかなく、いわゆる実存的な問題意識はやや稀薄であったことと、時代の激しい移り変わりが清水の入れ込むテーマを次々と破産させてしまったことが、彼に漂流を重ねさせた背景のようである。

かといって、清水は完全なデマゴーグとも言い切れないらしい。彼は直情径行で激しやすい気質であり、問題に全力でぶつかっている誰かを見たら心を動かされてしまうような人間でもあった。それゆえ、時々の主張や運動に真剣でなかったわけではない。むしろかなり全力で取り組んでいたようにみえる。それでも、社会や生活が変われば考えが変わるのは当然のことだとも清水は考えていたので、主義がコロコロするのも彼にとってはやましいことではなかったようである。

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