感想
立ちしままこおりてゆけるビル群のかなたにまぼろしのユラ紀がみゆる
ぼくはぼくを許せぬ夜にただひとつ灯台だけが立っている雪
暮れなずむ御苑の空のむらさきの水晶系に住める鳥たち
〈赤方偏移〉美しい言葉を読みさして宇宙の一点にある本を閉ず
〈幸福〉になること男はおそれつつ苦きトラジャにカップを汚す
恐竜の全身骨格おさめたるトタンの屋根にふる光粒子
白きものは飲み込みかねていつまでも蠕動している透明な水
きたる世も吹かれておらんコリオリの力にひずむ地球の風に
オートマタの道化師がゆっくり倒立し物語に閉じ込められる身体
凹凸のかすかにいまも陽をはじく恐竜の皮膚の他界の思い出
唇をもつことのなかった竜たちはざらざらの顔で月を食いたり
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そういえば、ドイツ文学専攻らしくジュラ紀じゃなくてユラ紀と表記するのも特徴。関係ないけど、由良君美を聯想してしまう
広大なコスモロジーが表現されている作品も多くて、「赤方偏移」とか「光粒子」とかの作を見ると一首のなかに籠められた時空の拡がりの大きさが胸を衝く感じがする
「〈幸福〉に」の珈琲の苦味と色味に対するシニシズムとイロニーはちょっと面白い