キム・スタンリー・ロビンスン「ラッキー・ストライク」(SFマガジン1996年9月号/後藤安彦訳)読んだ。
史実では広島に原子爆弾を投下したエノラ・ゲイが事故により大破し、代わりとしてラッキー・ストライク号が任務に当たることになった。爆撃手を命じられた主人公は、悪夢を見る。原子爆弾を投下されたあとの、地上の地獄のような惨劇を。
彼は機上で苦悶した末、投下のタイミングをずらしてしまう。原子爆弾は広島市街を逸れ、人のいない森へと落ちる。これがデモンストレーションとなり、原子爆弾は犠牲を出さないまま、戦争は終結へと向かう。しかし主人公は、反逆罪で銃殺刑を下される。
彼は、その後彼の名を冠する団体を中心とし、核廃絶を達成する未来を見ることのないまま、処刑されてしまう。だが、彼は間違いなく英雄となったのだ。
一種の改変歴史もの。ともすれば自己正当化されてしまいがちなアメリカの原子爆弾投下に対する価値観のなかで、一石を投じた反戦テーマの作品であり、この時期にこそ読まれるべき名作。
というわけで「カモガワ奇想短編グランプリ」やります! 審査基準は「奇想あふれる優れた短編小説」。みなさんの日常に風穴を開けるような奇天烈な発想の作品をお待ちしております!! 詳しくはnoteの記事を参照のこと。
https://note.com/kamogawagbooks/n/n0b3bfd549f6c
Laura Mauroの短編"Looking for Laika" 読んだ。
冷戦真っ只中の英国が舞台。祖父からソ連の宇宙犬ライカの話を聞いた少年は、妹にでっち上げのライカにまつわる物語を語って聞かせる。ある日隕石が落ちた時、妹は宇宙船を見たと言い張り、少年はロシア語の描かれた板を拾う。その後核戦争が勃発、イギリスも犠牲となり、少年は両親を失う。
その数十年後、学者となった少年は、学者仲間に札に書かれたロシア語がライカの別名であったことを知らされる。妹が見た宇宙船は、本当にライカが乗っていたものだったのかもしれない。少年は数十年の時を経て、妹に真実の物語を語る。
かなりエモくて泣かせる。2018年の英国幻想文学賞短編部門受賞作。
ようやくヒューゴー賞の候補作が公表されましたね!
https://locusmag.com/2023/07/2023-hugo-astounding-and-lodestar-awards-finalists/
レイ・ネイラーのThe Mountain in the Sea、SFマガジンの4月号で鳴庭真人氏が紹介してましたね。蛸とのファーストコンタクトSFらしい。
>「……ピーター・ワッツの《ブラインドサイト》二部作に匹敵する二十一世紀のファーストコンタクトSFの力作といえる。」
鯨井久志。書評や翻訳など。SFとラテンアメリカ文学が好き。サークル「カモガワ編集室」主宰。ジョン・スラデック『チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク』(竹書房文庫)好評発売中。 Hisashi Kujirai /translator, reviewer